ただいまご紹介にあずかりました、 アーティスト村上隆主催の有限会社カイカイキキの綛野匠美と申します。

本日はじまりの美術館が無事に開館の日を迎えましたこと、心よりお祝い申し上げます。 まことにおめでとうございます。

村上が震災直後に提唱した、newdayという義援金を募るオークションや作品販売により集まった支援金が、この記念すべき美術館の開館の一助となりましたことを嬉しく思います。

さて、本日ご臨席の皆様の中には、弊社と『はじまりの美術館』様との間にどのような関わりがあるのかをご存知ない方が殆どで、ましてや弊社の名前を初めて耳にされた方もいらっしゃるかもしれません。 そこで、この場を借りて、弊社と『はじまりの美術館』様との関係について、改めてご説明させていただきたく存じます。

そもそもの発端は、2011年3月11日に発生した東日本大震災にまでさかのぼります。

弊社では、10年以上前より「GEISAI」という、若手アーティストの発掘・育成を目的としたアートイベントを開催しております。 そのGEISAIの10周年を記念する第15回目の開催が、震災の2日後、2011年3月13日に予定されておりました。 そして、震災の影響により、このイベントは中止を余儀なくされました。

ですが、「GEISAI#15」の中止を宣言した時から、参加予定だったアーティスト達とのメールでの対話で、自分達にも何かできないだろうかという話が盛り上がり、WEB上で自分たちの不安な気持ちの吐露を正直に語ったり、被災者の皆さんへの応援のメッセージをサイト上にまとめて発信しようとスタートさせたのが「New Day」プロジェクトです。 のべ1000点以上の作品が瞬時にWeb上に投稿されました。

この「New Day」ムーブメントを観てくれていた、台湾の新聞社アップルデイリー社が、自分たちも日本の被災者を応援したいと名乗りを上げてくれ、村上デザインのポスターやTシャツを販売し、それらの売り上げのすべて、約5600万円以上を義援金として被災地に寄付させていただきました。 この時は日本赤十字に寄付いたしました。

少しづつ、「New Day」の輪が広がって行き、大手オークションハウス・クリスティーズのオーナー、フランソワ、ピノー氏との対話から2011年11月にニューヨークで「New Day - Artists for Japan」という大規模なチャリティーオークションを開催することになりました。

より大きな話題にしようと、ニューヨークの最大手ギャラリーGAGOSIANも協力して下さり、作品の下見会の会場の提供と、大物アーティストたちへの参加の手配をしてくださいました。

参加してくれたアーティストは
ダミアン・ハースト
ジェフ・クーンズ
シンディ・シャーマン
奈良美智
KAWS
リュック・タイマンス
ガブリエル・オロスコ
アンセルム・ライル
マーク・グロッチャン
トーマス・ハウセゴ
フリードリッヒ・クナス
曾梵志(ゾン・ファンジー)
Mr.
タカノ綾
村上隆

結果的に、日本円で約6億4千万円の売り上げを上げることができました。

村上は、オークションのために制作されたカタログで次のように述べました。 「天災、人災、多くの人間が災いのもと混迷してゆくその原因を突き詰めてゆかねば、災害は何度も同じように発生し、処方していなければその深度は深まりますます人心を蝕んでいくでしょう。 そんなカタストロフのヴィジョンを、皆さんと共有可能なきっかけとして、アート作品のオークションという資本主義の最果ての現場が機能してくれれば、私たちのいま現在の行き先の見えない困苦も、報われる気がいたします」

このようなメッセージに重ねて、そのような困苦を生き抜いた過去の日本人として宮沢賢治を紹介いたしました。そして、村上のNew Dayプロジェクトの理念に共鳴し、当日もオークション会場に駆けつけてくださった俳優の渡辺謙氏が、宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」を日本語、英語の二カ国語で読み上げ、会場は厳かな雰囲気に包まれました。

このチャリティーオークションの寄付金を基に日本財団様に設置された「New Day基金」の支援事業の一環として、はじまりの美術館様が開館する運びとなったとおうかがいしております。

アートの力で社会に希望の光を灯せないだろうか、という村上の思いから始まったNew Dayプロジェクトが、「GEISAI」という若手アーティストの発表の場の閉鎖に端を発し、WEB上での小さな共鳴から始まって、台湾での展覧会やチャリティーアイテムの販売、そしてニューヨークでのチャリティーオークションに著名なアーティストより作品の寄付をしていただき、その売上げから、ひとつの美術館の誕生という形で結実したことを喜ばしく、また光栄に思います。

『はじまりの美術館』様は、アール・ブリュットの作家をコレクションや展覧会の軸に据えつつ、同時にここ猪苗代町に根を下ろし地域コミュニティーの活動拠点を目指すという、目標を掲げていらっしゃいます。

いずれその目標が現実となり、被災された皆様のお役に立ちますことを祈念いたしまして、私の挨拶にかえさせていただきます。 本日はまことにおめでとうございます。